研究概要 |
私達は通常,中心視野を使って物を詳細に見るため,中心視野の特性がよく調べられている.しかし,外界を広く大きく見るときには周辺視野を用いている.したがって,大画面ディスプレイなどで臨場感のある映像を呈示するためには,周辺視野の働きを十分に考慮する必要がある.本研究では,周辺視野が観察者に与える臨場感の定量化を目的とし,刺激視野の大きさと視覚誘導自己運動感覚(ベクション)の関係を調べた.被験者からの応答はベクションの主観的強度評価,刺激呈示開始がらベクション生起までの潜時,重心動揺計による被験者の重心位置の変化とし,3人の被験者を用いた.以下の点が明らかとなった. 1.ベクションの強度評価は刺激視野サイズが視角80度までは視野サイズにほぼ比例して増大し,その後はほぼ一定となる. 2.潜時は刺激視野サイズの増加とともにベクション強度評価と反比例して減少する. 3.ベクション時の重心位置の変化は刺激視野サイズの増加とともに,平均位置のシフト量,動揺の標準偏差および動揺の軌跡長がベクション強度評価と良い一致をみた. 4.ただし,ベクション時の重心位置の変化が極めて小さい被験者もいた. 5.被験者の内観報告より,視野サイズ80度付近で,自己と周囲の環境が共に運動するという運動知覚から自己のみの運動知覚へと切り替わることがわかった. 本研究により,ベクション強度は安定して測定でき,また重心動揺とも良い相関にあることがわかり,臨場感の定量化に適当な指標となることが明らかとなった.また,刺激視野は視角80度のサイズまでは臨場感に強い影響を与えるが,それ以上大きくしてもあまり効果のないことがわかった.今後は被験者の数を増して,本研究結果の一般化および個人差の定量化を図る必要がある.
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