研究概要 |
本研究では,指が対象物に接触した場合の対象物が硬いのか軟らかいのかを判定する認知行動について,指の触覚による判定基準を検討し,その特性を明らかにすることを目的にした.そのために,指に対象物が接触する際の力学的パラメータを操作することにより,対象物の硬さ軟らかさの判定がどう変わるのかを調べ,触覚に影響を及ぼす要因について考察した. 健常成人10名(男性6名,女性4名)を対象に,手指を固定するガイドと1軸精密位置決めテーブルから成る接触状態制御装置を用い,示指の末節骨部掌側に2種類のゴム弾性体を押しつけた.その際に押し込みの深さ(1,2,3mm),押しつける速度(5,10,20mm/s)を変化させた9種類の実験条件で,前後に押しつけたゴム弾性体でどちらが硬く感じたかを答えさせた.指と対象物の接触力を静電容量型圧力測定装置で計測し,その接触力を基準に硬さ判定の正答率を求めた.そして,接触力の差,力学的パラメータと正答率の関係を求めた. その結果,(1)深さ1mmと2mm,2mmと3mmの間の正答率には有意な差が見られたが,接触力の差では有意な差が見られなかった.(2)正答率と接触力の差を速度間で比較したが,有意な差は見られなかった.(3)接触時間と正答率には関係が見られなかった. 以上のことから,押し込み深さと接触力の差に関係が無くても,押し込みの深さが深くなり接触力が大きくなると触覚受容器の感度が向上し,硬さ判定に影響を及ぼしたことが示唆された. 今後,指の弾性変形を考慮した接触状態と硬さ判定の関係を考察し,また,より多くの弾性体による実験例を増やすことで指の触覚による判定基準のモデル化を試み,触覚の力学的特性について解明する.
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