研究概要 |
本研究は, 「臨場感」という感覚の性質を明らかにすることを目的とする.本年度は,聴覚を通じて知覚される臨場感に限定して研究を行った. ダミーヘッドを用いて録音した23種の環境音を刺激音として,以下の3種の実験を行った. 1.音源の種類が臨場感に及ぼす影響を調べるための一対比較実験.被験者は,ランダムに選ばれた二つの刺激音を継時的に聴取し,臨場感の相違を5段階尺度を用いて比較した.その結果を尺度構成し,受聴者に対して音源が相対的に動く音および音像に広がりのある音の臨場感が有意に高いと評価されることを明らかにした. 2.音の再生方式が臨場感に及ぼす影響を調べるための一対比較実験.刺激音の再生系として,精密なバイノーラル再生系からモノラル再生系までの5種を準備し,再生された音について臨場感を一対比較した.その結果を尺度構成し,音像の定位情報が正確に再現されるほど臨場感が有意に高いと評価されることを明らかにした. 3.臨場感を構成する聴覚要因を探る実験.音源および再生方式の異なる24種の刺激音の各々を,33種類の評価語対により評価するSD法の実験を行った.その結果を因子分析し,5因子(量的因子,美的因子,柔らかさ因子,音情報に関する因子,音像定位に関する因子)を抽出した.次に,これらの因子得点を説明変数とし,臨場感評価値を目的変数とした重回帰分析を行った.重相関係数が0.92であったことから,臨場感はこれらの因子の線形結合として表現される複合的な感覚であることが示された.重回帰係数を比較したところ,情景が自然に捉えられるように音情報が与えられることと,音像が良好に定位することが,高臨場感を得るために重要であることが判った. 以上の知見を踏まえ,来年度は視覚情報を与えた場合の臨場感の性質について検討する予定である.
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