研究概要 |
本研究における第1の狙いは,無響室や防音室といった特殊な場所にとらわれることなく騒音や住宅等の遮音性能を体験できる,耳栓型電気音響変換器を使用した騒音体験シミュレータを構築することである。第2の狙いは,本シミュレータによって防音効果を体験することと,主観的判断とシステムズアプローチをミックスした問題解決型意思決定手法の一つである階層分析法(Analytic Hierarchy Process,以下AHPと言う)の適用により,防音設備選択に関する複数の選択基準の重み付けを行い,それらの結果から,最適な防音設備選択の支援が可能かどうかを検討することである。 騒音源シミュレータに関する主要な研究成果をまとめると以下のようになる。すなわち, (1)耳栓型電気音響変換器は,外耳道へ装着したときの伝達特性のメカニズムを明らかにし,高忠実度再生可能なイヤホンが製作できた。 (2)提案した環境騒音シミュレータは,現実に近い騒音に関する主観的印象を与えるシミュレーションが可能であり,経済的かつ合目的的に遮音材料の選定もできると言える。 人々はそれぞれの住宅に関して選択基準をもっている。一方,住宅には,これらの基準により評価されるべき多くの選択要因ごとの特性値がある。しかし,生活者の選択基準は,個人属性や生活のための目的で異なり,また各々の経済的理由や騒音・振動等に関する心理的要因など各種特性の客観的な評価が難しい場合が多い。そこで一つの方法として,AHPの適用を新たに試みた。得られた主要な結果をまとめると以下のようになる。すなわち, (1)騒音環境の等価騒音レベル値が60dB以上になると,階層構造を構成する要因は「費用」よりも「遮音性能」の方が重要になる。 (2)「遮音性能」においては,「うるささ」要因が最も重要である。 以上から,合目的的で経済的な騒音防止対策をたてるにあたって,本研究の環境騒音シミュレータは,事前に予測したものが,実感的に体感できることから,dB単位の数値による説明だけよりも,説得力がありかなり有効であると考えられる。しかも,AHPと組合せることにより,騒音の測定・評価・対策技術の選定法に全く新たな進展が図られたものと言えよう。
|