研究概要 |
「おいしさ」は様々な要素が絡み合う複合的な感覚である.おいしさは,5つの基本味(苦味,酸味,塩味,甘味,うま味)に加えて辛味や渋味,さらに香りや歯ざわり,舌ざわり(テクスチャー)などが作用しあって知覚される. これまでの研究で,脂質膜型味覚センサは,上記の5基本味のうち,特に電解質である呈味物質については高感度に測定できることがわかっている.一方,非電解質である甘味や辛味の呈味物質については比較的応答が小さい.そこで,実際の生体膜は脂質とタンパク質から構成されていることを鑑み,良好な配向性が期待できるLB膜として脂質タンパク質複合膜を採用し,ショ糖やカプサイシンなどの非電解質である呈味物質の測定を試みた. さらに,その味の表現が多彩であるスープ,調味料(醤油,塩)などの呈味溶液を測定サンプルとし,味覚センサやSPR(表面プラズモン共鳴)法,pH計,電気伝導率計による測定を行うと同時に官能検査を行った.そこから得られた分析値間の相関をとり,各量の類似度,独立性を評価した.また,甘味と苦味の間の抑制効果などの味覚相互作用の再現も試みた. 以上の実験から,現状の味覚センサ応答に複数の測定機器から得られる情報を組み合わせることで,より的確な官能表現を出力しうる可能性が見出されると同時に,脂質膜を用いた味覚センサの受容メカニズム解明にも迫ることができた.今後,各種測定機器の機能を組み合わせたハイブリッド型味覚センサを開発し,センサ出力情報の多元化を目指す. 本研究により,食品のおいしさを定量化する人工味覚認識システム(感性バイオセンサ)の基本原理の確立に向けて,大きく前進することができた.
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