以下の2つの計画について研究を行った。 (1)植物から菌類への遺伝子の伝達:糸状菌で選択可能なマーカー遺伝子を持つシロイヌナズナに、病原性菌および腐生菌を接種し、マーカー遺伝子が伝達された系統の選抜を試みたが、伝達は確認できなかった。そこで、モデル系として、培地中からのDNAの取り込みや、石英砂に吸着し、安定化させたDNAの取り込みについても検討を進めたが、伝達現象は確認されなかった。また、これらとは違った観点から植物/糸状菌間の遺伝子の伝達を考える系として、リンゴ斑点落葉病菌の特異的病原性決定遺伝子をクローニングし、塩基配列を決定した。その結果、約20-kbの遺伝子中にイントロンがないことやコドンの利用頻度等からも考えて、他の生物種由来である可能性が示唆された。 (2)糸状菌ゲノムへの外来DNAの組み込み機構:上記のDNAの伝達現象が起こるための、糸状菌細胞内での機構および装置として、DNAの組み込みに関与する遺伝子の同定を行った。現在までに、減数分裂時組み換えおよび組み換え修復に関与する遺伝`3つをクローニングした。そのうち、相同性の検索に関与する遺伝子を、二種の糸状菌において部位特異的に破壊し、形質転換時における細胞外DNA分子の組み込み様式を詳細に検討した。その結果、遺伝子破壊株では相同的組み込みが全くおこらず、染色体への組み込み部位数の増加も観察された。このことから、本遺伝子産物は相同的組み込みに直接関与すること、遺伝子破壊株では、非相同的組み込みを介在する別経路も同様に効率的に機能することを明らかにした。残り二つの遺伝子についても、機能解析を鋭意進めている。
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