研究概要 |
本研究の目的は、瀬戸臨海実験所北浜と畠島の潮間帯下部の二つの海域に生息する海産自由生活型線形動物のMeyersia japonicaの個体群間で、形態および分子生物学的観点から,その差異を明らかにすることである。平成11年度には、前者の海域から、Meyersia japonicaの個体群を採集し、RAPD法に分子生物学的解析を実施する際の技術的問題点の洗い出しを行った。また比較対象となる畠島個体群の採取を試みたが、失敗した。そこで平成12年度には、まず畠島周辺の広範な調査を実施し、既知の場所と異なる海域で、Meyersia japonica個体群を発見し、形態学用の試料は2000年5月および8月に、また分子生物学用の試料は、2000年8月に採集した。それらの試料を用い、形態学的差異は、尾長などの体型に関するものと、口器内の歯の形態を中心に解析した。解析方法は光学顕微鏡画像を、デジタルカメラで撮影し、画像解析ソフトにより,計測値を得る方法を採用した。解析の結果、二つの個体群の間に、いずれの測定項目においても統計的に有意な差は見出されなかった。分子生物学的解析は、RAPD法により実施した。用いた19個のRAPDプライマーのうち、5個のプライマーが多型的バンドを有しており、計33個の多型バンドを検出したが、観察された全変異のうち、個体群間の変異の割合は、1.13%であり、2個体群間に有意な遺伝的差異はみられなかった。これらの結果から、ほとんど移動能力はないにもかかわらず、地理的に隔離されているMeyersia japonicaの2個体群間には、遺伝的交流が存在することが明らかになった。しかし、当初予定していた台風の影響の調査は、研究期間中に台風が田辺湾に接近しなかったため実施できず、台風が遺伝子交流に貢献しているかどうかは、明らかにできなかった。
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