本研究では、様々な食性を示すコガネムシ上科を対象に、形態やDNAを用いて各群の間の系統関係を明らかにし、得られた系統情報に様々な餌食物の資源的特性を加味することで、本上科の食性進化の史的概観を探ることを試みた。 コガネムシ上科の各分類群の系統解析に関しては、まず、クワガタムシ科について、幼虫形態および16SリボソームRNA遺伝子を用いて世界の全亜科、アジア産のほぼ全属間の系統関係を明らかにした。また、分類学的に混乱が多いDorcus属に関してはRAPD法やCOI遺伝子による解析も行い、属内の詳細な系統関係も明らかにすることができた。16SリボソームRNA遺伝子を用いてクロツヤムシ科に関しては世界の全亜科間、コガネムシ科に関しては全世界のカブトムシ亜科の主な属間の系統解析を行った。さらにコガネムシ上科全体に関しては、16SリボソームRNA遺伝子を用いてクワガタムシ科、クロツヤムシ科、コガネムシ科、センチコガネ科、コブスジコガネ科、アカマダラセンチコガネ科、アツバコガネ科の科間の系統関係を明らかにし、後翅脈等の構造に基づいて構築されていた従来のコガネムシ上科の系統関係との比較を行った。 得られた系統関係に基づき、クワガタムシ科をはじめとする食材性の群における褐色、白色、軟の各腐朽型への選好性の進化が主に幼虫の木材構成高分子に対する消化能力の獲得と深く関わっていることを明らかにした。さらに腐植物食性のテナガコガネ等や好白蟻性の群に関しては、高窒素含有量を求めて食材性のものから二次的に移行した可能性が高いことを示唆した。これは腐植物食性が原始的な食性であるとする従来の見解を大きく改めさせるものである。さらに食性とも深く関わる亜社会性の起源に関しても議論すると共に、亜社会性のクロツヤムシ科では食性の違いが前肢や体の厚み等の形態変化をもたらしていることをも明らかにした。
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