本研究では集団内の遺伝的関係や近縁種間の類縁関係を遺伝子レべルで明らかにするため、比較に適切なDNAマーカーを効率的、低コストで選出、解析できる系の構築を試み、以下に示す結果がえられた。 屋久島西部のヤマモモ3集団、合計77個体において抽出したDNAを用いて、約500組の2種類の10塩基ランダムプライマーを用いてRAPDマーカー法により増幅を安定的に増幅できる120組のプライマー対を選択した。これらの増幅パターンを比較したところ、マーカーとして、8種類の優性マーカーと8種類の共優性マーカーが個体識別に有効であった。これらをもとに遺伝子型を決定したところ、73個体は個体識別が可能であったが、残りの4個体は各2個体の遺伝子型がそれぞれ同一であった。各個体の分布、個体サイズ、遺伝子型より、集団の構造と形成過程に関して以下のことが明らかとなった。 1.種子散布:調査地域の23個体が地域内に散布された種子由来で、その散布距離は20〜660m、残りの個体は、外部集団から移入したものである。この距離から、ヤマモモの種子の定着に有効な散布法はヤクザルによる糞散布と推定された。 2.花粉散布:風媒花粉の有効散布距離は従来、花粉源から約10〜20mと推定されていたが、ヤマモモの花粉では直線距離にして約50〜440m散布され、大半は尾根間の長距離移動であった。 3.集団構造と形成過程:調査地域では、最初に外部集団からの種子散布により23個体が定着・成長し、次に、内部での交配、外部集団からの花粉や種子の移入により形成された。近交弱勢が集団形成に関して影響を与えている可能性が示唆された。
|