1.同所的種分化の研究対象種を含むトガリシダハバチ属の東アジアに分布する種の実態を調査した。本属は世界から18種が知られ、その内14種が東アジアに分布している。今回の研究により、更に5新種が中国に分布することが明らかになり、本属の同胞種群が東アジアに集中的に分布し、種分化の進行の可能性を示唆した。 2.トガリシダハバチ属では、寄主転換を伴う同所的種分化の諸段階が見られることが明らかになった。 (1)ニホントガリシダハバチは日本列島の北緯34度附近の狭い帯状地帯で同所的種分化が進行中である。 (2)同所的種分化により生じたニホントガリシダハバチのジュウモンジシダ生態種とシシガシラハバチは、現在分布域の大部分で時間的隔離が進んでいるが、高所、高緯度で一部が混生している。 (3)イヌワラビハバチ同胞種およびメスグ口シダハバチ同胞種では、同所的種分化の後、各派生種が環境適応の結果、現在それぞれの同胞種は完全に地理的に隔離されている。 3.トガリシダハバチ属の種形成および類縁関係を分子手法により明らかにする試みは、ミトコンドリアND5遺伝子領域を対象として、現在進行中である。 4.カタアカスギナハバチcomplexの核型多型はロバートソニアン型開列が原因であり、多型の同所的置換はへテロ雌の発育不全による集団からの除去によることが明らかになった。
|