1.トガリシダハバチ属では、寄主転換を伴う同所的種分化の諸段階が見られることが明らかになった。(1)ニホントガリシダハバチは日本列島の北緯34度附近の狭い帯状地帯で同所的種分化が進行中である。(2)同所的種分化により生じたニホントガリシダハバチのジュウモンジシダ生態種とシシガシラハバチは、現在分布域の大部分で時間的隔離が進んでいるが、高所、高緯度で一部が混生している。(3)イヌワラビハバチ同胞種およびメスグロシダハバチ同胞種では、同所的種分化の後、各派生種が環境適応の結果、現在それぞれの同胞種は完全に地理的に隔離されている。 2.種分化と分子遺伝学的変異との関係を調べるために、ニホントガリシダハバチとその同胞種であるシシガシラハバチの地域個体群について、ミトコンドリアDNAのCOI遺伝子領域の547塩基の配列を比較した。その結果、UPGMA法により構築された分子系統樹では、形態的区別が不可能な同胞種2種は別グループを形成した。ニホントガリシダハバチでは、生態種、生態種形成途上個体群、寡食性個体群の間で塩基配列に違いが見られたが、種形成との関連は今後の課題である。 3.スギナを単食するカタアカスギナハバチcomplexの核型多型はロバートソニアン型開列が原因であり、n=9、n=10、n=11の順に派生した。多型の交雑地帯では、2倍体へテロ雌の適応度の低さによる集団からの除去に続く、派生ホモ核型の優性分布により、多型の置換は同所的に起こることが明らかになった。核型多型間には生殖隔離の発達が見られ、種分化の発端の可能性を示唆する。 4.北半球に広く分布するマツの害虫マツノキハバチは性フェロモンに地域変異性が見られ、生殖隔離を誘発する可能性あることが明らかになった。
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