地球生物圏フロンティア(深海底と地底)の微生物相-分類と生態

2000 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 11833012
• 研究機関: 広島大学
• 研究代表者: 長沼 毅 広島大学, 生物生産学部, 助教授 (70263738)
• 研究分担者: 岩月 輝希 核燃料サイクル開発機構, 東濃地科学センター, 研究員 ; 河野 憲治 広島大学, 生物生産学部, 助教授 (50034476)
• キーワード: 深海微生物 / 地下生物圏 / 地底微生物 / 16S rRNA遺伝子 / 系統分類 / 炭酸固定 / RuBisCO / 硫酸還元

研究概要

本研究では,深海底と地底という地球生物圏における2つの大きな未踏領域に生息する微生物の生態と分類を明らかにするために,潜水調査船を使った深海調査および調査試錐孔・調査坑道を使った陸上地下調査などにより微生物試料を採取し,微生物の分離・培養あるいは微生物相の生化学的解析や遺伝子解析などを行った。本研究で得られた結果概要を以下に挙げる:
○熱水噴出孔やメタン湧水帯など特異な生物群集が形成されている深海底に生息する微生物相について、分子系統分類で多用される16S rRNA遺伝子解析を行ったところ、化学合成微生物であるイオウ酸化細菌(チオトロフ)やメタン酸化細菌(メタノトロフ)の存在が確認され、これらの微生物が特異な深海生物群集の生存を支えているという考えを再確認した。
○さらに、深海底での化学合成炭酸固定に関与する酵素ルビスコの遺伝子を解析したところ、深海底には嫌気条件で機能する原始的なルビスコ遺伝子が広く分布することが分かり、深海底における化学合成が遍在的であることが示唆された。
○また、海底の嫌気条件における主要な反応である硫酸還元に関与する酵素DSRの遺伝子を解析したところ、従来知られていなかったDSR系統群(真正細菌)の存在が確認されたほか、古細菌型DSRを有する系統群の存在も新たに確認された。
○上記と同様の遺伝子解析を地下試料についても行ったところ、多様な化学合成微生物種や嫌気呼吸微生物種の存在が確認されたほか、それらの遺伝子を有する微生物を生きたまま回収し、純粋培養することに成功した。これらについては現在解析・同定等を進めているところである。

研究成果

• [文献書誌] Hosam Elsaied & Takeshi Naganuma: "Phylogenetic diversity of ribulose-1,5-bisphosphate carboxylase/oxygenase large-subunit genes from deep-sea microorganisms"Applied and Environmental Microbiology. 67(4)(in press). (2001)
• [文献書誌] Okamoto T,Fujioka K & Naganuma T: "Phylogenetic similarity of aerobic gram-negative halophilic bacteria from a deep-sea hydrothermal mound and Antarctic habitats"Polar Bioscience. 13(in press). (2001)
• [文献書誌] 高杉秀美,長沼毅,金松敏也,池原研,沖野郷子,藤岡換太郎: "堆積物脂肪酸を用いた深海帯微生物相の解析"JAMSTEC深海研究. 15(1). 25-33 (2000)
• [文献書誌] 村上由記,長沼毅: "地下深部に広がる微生物ハビタットー地下生物圏"Microbes and Environment. 15. 125-131 (2000)
• [文献書誌] 長沼毅,岡本拓士: "海底熱水噴出孔からサブベント生物圏へ"月刊海洋. 号外23. 121-126 (2000)
• [文献書誌] 村上由記,長沼毅,岩月輝希: "深部地質環境における微生物群集-東濃地域を例として"原子カバックエンド研究. 5. 59-66 (1999)
• [文献書誌] 長沼毅(分担執筆): "NHKスペシャル宇宙-未知への大紀行 第1巻 天に満ちる生命"NHK「宇宙プロジェクト」編,日本放送出版協会. 240 (2001)
• [文献書誌] Naganuma T (分担執筆): "Extremophiles in Deep-sea Environments"Horikoshi K and Tsujii K (eds),,Springer-Verlag,Tokyo. 316 (1999)