研究概要 |
計画にしたがって本年度は,おもにトカラ列島南部に分布するヘビ類2種(トカラハブとリュウキュウアオヘビ)について調べた.これまでに採集され,フリーザーにストックされていた標本,ならびに新たに採集された標本について,解剖して組織を摘出した.そしてこれらを試料としてデンプンゲル電気泳動法により酵素蛋白の支配遺伝子の変異についてデータを収集し,分析を加えた.また宝島産リュウキュウアオヘビの輸卵管卵を持った個体を入手し,同島個体群の矮小性が遺伝的な形質かどうかを検討するため飼育下での産卵,孵化を試みた. 酵素蛋白の分析を行なった結果,トカラハブの宝島産個体群と小宝島産個体群の間で遺伝的な差異がほとんどないこと,トカラハブと奄美大島・徳之島のハブとの間の遺伝的差異もきわめて小さいこと,これに対してこれらのすべてと沖縄島・久米島産のハブとの間では,著しい遺伝的な差異があること,が確認された.また,リュウキュウアオヘビについても,サンプルサイズは小さいもののその変異がトカラハブと同様な地理的パタンを示すことが,強く示唆された.宝島産のリュウキュウアオヘビは飼育下で無事産卵し,卵が沖縄産のものより小さいことが確認できたものの,残念ながら孵化させることはできなかった. 本年度の研究結果は,南トカラの固有中心が,必ずしもこの地域の奄美諸島からの長期間の隔離を反映するものではなく,むしろ小島嶼におけるいくつかの爬虫類の急速な特殊化の結果を形態分類学的に解釈した結果であることを予想させる.
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