研究概要 |
従来,高温超伝導体の磁気遮蔽性能は,完全超伝導状態を対象として実験的および数値的研究が行われてきた.しかしながら,高温超伝導体が第2種超伝導体であり,さらに,その上部臨界磁界が100T以上であることを考慮すれば,混合状態下での磁気遮蔽性能を積極的に工学分野において応用することが期待される. 上記理由により,本研究では,混合状態下にある高温超伝導体の磁気遮蔽性能を数値的に調べた.高温超伝導体の結晶学的異方性を考慮すれば,超伝導板は複数の薄層からなる多層構造をもつと仮定できる.この仮定の下で,遮蔽電流密度の支配方程式はスカラー関数の微積分方程式として定式化することができる.この微積分方程式の初期値・境界値問題を解く数値シミュレーション・コードを開発し,同コードを用いて混合状態下にある高温超伝導体の磁気遮蔽性能を解析した.この際,混合状態を記述するJ-E構成方程式には,磁束フロー・磁束クリープ・モデルを採用し,同モデル中の臨界電流密度とフロー抵抗率は定数とした. 解析結果から,高温超伝導板の磁気遮蔽性能は100Hz以下の低周波磁界に対しては時間依存性をもつのに対して,高周波磁界に対する遮蔽性能は時間依存性をもたないことが分かった.さらに,高温超伝導体は,たとえ混合状態下にある場合でも,100Hz程度の高周波磁界を遮蔽できることが判明した. 上記の結果は,臨界電流密度とフロー抵抗率の磁界依存性を無視して得られたものである.この2つの物理量の磁界依存性を考慮した解析も本年度行われたが,印加磁界の位相がπの整数倍となる時刻で解が収束しなくなるという状況が生じている.これは,磁束フロー・磁束クリープ・モデルで磁束クリープから磁束フローへの遷移領域が微分不可能になっていることが原因である.この意味から,磁束フロー・磁束クリープ・モデルの修正が必要である.
|