本研究課題では、酵素反応および蛋白質機能への磁場効果を調べることで、生体分子・細胞を中心とした生体反応における磁場効果の基礎的研究を行い、以下に述べるような成果を得ることができた。 最初に、蛋白質の構造変化に及ぼす強磁場影響の研究を行った。赤血球の光学スペクトルを磁場中で測定することで、単離されたヘモグロビンおよび赤血球内ヘモグロビンの構造に対する磁場効果を検証した。10テスラ級の強磁場で細胞の配向と同時に、細胞内の大域的な構造変化に起因した赤血球内ヘモグロビンの構造変化が生じたことが示唆された。また、酵素反応への磁場効果に関し、活性酸素系のカタラーゼの酵素反応を最大8テスラの直流磁場下でカタラーゼ固定化電極を用いて調べた。強磁場下では、白金黒表面に積層し固定化した酵素カタラーゼの活性が減少したことを示唆する結果が得られた。 さらに、磁場配向させたコラーゲン繊維網における血小板の吸着性・凝集能について調べた。血小板はコラーゲンと接触することで凝集反応を開始し、配向コラーゲン上に平行な凝集体を構成した。さらに、微量のコラーゲンを添加した血小板サスペンションの凝集反応において、数テスラ級磁場は、血小板凝集速度を増加させた。 また、培養血管平滑筋細胞が単独であるいは配向蛋白質の添加なしに、8テスラ磁場下で磁力線方向に沿って細胞全体が並ぶ現象が再現性のある新規な現象であることを確認した。血管内皮細胞においても付着細胞が磁力線の方向性を感受して並ぶ可能性を示すことができた。細胞内の骨格蛋白質や細胞膜に作用する反磁性磁気力が細胞内外の蛋白質などの構造変化を引き起こすとともに、細胞の形態自身も変えうることが示唆された。
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