外部磁場が生物に対しどのような生理的な作用を与えるかを明らかにすることを目的とする研究の一環として、原生動物の一種ゾウリムシを用いて磁場の作用を調べた。 まず、ゾウリムシを交流磁場下(60Hz、0.6T)におくと、顕著に液面上部に顕著に集まることを見つけた。液面上部に集まり始めた時期の泳ぎを側面から眺めて解析した結果、多くのゾウリムシが上下方向にかけた交流磁場に対して、泳ぎ方向が徐々に上向きに向かうような変化をし、最終的に液面上部に達することが確認された。この結果は重力に対する応答が交流磁場によって影響を受けたために、ゾウリムシが本来持っている重力を感知して重力と反対向きに集まろうとする負の走地性が一過的に強められた可能性が考えられる。 次に、強い定常磁場(0.7T)の中にゾウリムシを置くと、ゾウリムシは磁場と垂直方向に泳ぐことを見つけた。そこでこのような磁場に対する応答はゾウリムシの細胞内器官がもつ反磁性的性質が原因となっているかどうかを検討した。反磁性は、蛋白、核酸などが規則的に配列した構造を形成している場合に発生する力が大きくなるとされている。規則的配列を持つ細胞内器官として、大核、繊毛、トリコシストについて各々を細胞から取り出し分画、精製したものを磁場中に置いてみた。その結果、大核は磁場によって配向しなかったが、繊毛とトリコシストはその長軸を磁場と平行の方向に配向することが分かった。繊毛、トリコシストはゾウリムシの表面膜全体に1万個ほど分布しておりその大部分は細胞長軸に対して垂直方向に向いている。したがって多数の繊毛、トリコシストが磁場方向と平行の反磁性が発生すると、それらの分布形態からゾウリムシは磁場に対して垂直に泳ぐことになる。ゾウリムシの定常磁場に対する応答は、基本的に細胞内器官の反磁性的性質に起因することが明らかになった。
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