本研究は、ビルディング内における電磁ノイズ障害の原因探索及び軽減方法を明らかにするという、広くかつ複雑な電磁環境を取り扱ったものであるが、実質的には通信線や電源線などライン系における電磁ノイズの挙動を根本的に見直し、新たに対策技術として利用できる現象解明に重点を置いて研究を実施した。今研究期間中に得られた結果の概要は以下の通りである。 (1)メタルペア通信線のコモンモード有効電力とノーマルモード有効電力の変換特性を理論と実験により低周波から数百MHzもの高周波に至るまで明らかにするとともに、この変換特性に関連づけてノーマルモード信号が空間に電磁波放射として漏れ出す特性を把握した。また、この変換特性を利用してビルディング内に敷設された導線のコモンモード帰路となる仮想アース面を推定する技術を考案した。 (2)2本の導線が併設されている場合、電磁ノイズの有効電力は起誘導線と被誘導線間でお互いに授受しながら伝搬することを理論と実験により明らかにした。このことから、特定の周波数であれば被誘導線に有効電力を吸収させることにより伝導ノイズの低減設計が得られる可能性があることが示唆された。 (3)表皮厚より十分薄い蒸着アルミシートをメタル導線に併設すると導線を伝搬する有効電力を低減できること、さらに蒸着アルミシートの幅や長さおよび絶縁スリットの入れ方により低減効果を得る周波数領域をコントロールできることを実験的に把握した。またこの現象は(2)に示した併設導線間の有効電力の授受現象を拡張して解釈できることを理論で把握した。すなわち、低減の理由は併設導線間の結合問題と同様に蒸着アルミシート-グラウンド間に有効電力が受け渡されてそこで消費された結果であると結論づけられた。さらに、放射電磁界も抑圧できていることも実験的に確認し、導線から蒸着アルミシートに受け渡された有効電力は熱損失による有効電力低減に至っている可能性が強いとの見通しをたてている。以上のことから、建物内に配線されたメタル通信線などから電子回路や機器に侵入する高周波の伝導ノイズや放射ノイズを軽減する方法として、金属薄膜シートを併設する方法は簡易で有効な方法となりうる。 これらの結果はビルディング内の電磁ノイズ障害発生機構の解明とその対策技術を確立する上での一助となる成果である。ただし、当初の目標の一つであった電磁ノイズ波形パターンや伝搬特性パターンなどを識別しつつノイズ発生原因や進入経路などを特定する技術については、有効電力の伝搬パターンの識別による発生原因や進入経路の識別の可能性を見いだすにとどまり、今後の課題として残った。
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