研究概要 |
【研究の目的】脳卒中や不全脊髄損傷などの骨格筋麻痺を持つ患者の上下肢の筋肉に,放射線同位元素でラベルしたブドウ糖(18F-fluoro-deoxy-glucose,以下FDG)が歩行などの一定の運動でどの程度取り込まれるかをポジトロン断層装置(PET装置)で測定し,PET画像からブドウ糖の取り込み量と取り込まれる筋肉の種類・場所やその経時的変化を明らかにする.これにより麻痺筋の回復過程を筋肉のブドウ糖代謝の側面から明らかにする。 【本年度の研究計画および結果】昨年度は,健常な被験者を対象に15分間の歩行による下肢筋のFDGの取り込み量を測定し,歩行負荷による下肢筋への標準的な取り込み量を知った.今年は,脳卒中の患者に対して,同様な負荷を与えFDGがどの程度筋肉に取り込まれるかを測定した.そして健常者との間および麻痺の程度の違いによる比較を行い,筋肉の麻痺の程度と下肢筋のブドウ糖代謝量との関係を明らかにする作業を行った.健常者において歩行後にそれぞれの下肢筋に取り込まれたFDGの量を,SUV(standardized uptake value)で求めた.ヒラメ筋と小殿筋への取り込みはSUV1.7と特に大きい値を示し,大腿四頭筋,特に大腿直筋と外側広筋ではそれぞれ0.48,0.54と小さい値を示した.内外側のハムストリングも0.59〜0.65と小さい値であった.相対的に大腿筋よりも下腿筋の値の方が大きかった.統計学的には,小殿筋では大殿筋・中殿筋と比較してSUVが有意に大きかった.下腿屈側筋ではヒラメ筋は腓腹筋の内側・外側頭よりもSUVが大きい傾向を示したが,有意差を認めなかった.大腿四頭筋では,中間広筋・内側広筋は大腿直筋よりもSUVが有意に大きかった.以上より健常者の下肢筋において,歩行時の有酸素性の活動がより大きい筋が示された.今年は片麻痺患者7名に対し同様の測定を行い,その結果を現在,健常者との間や麻痺程度の異なる患者の間で比較・検討中である.
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