前後方向の立位位置は、前傾や後傾にともなう足底圧情報や筋感覚情報などの体性感覚情報の急激な変化をもとにして知覚されているものと考えられる。そこで、前傾では母指球圧の極大値、母指圧および母指外転筋活動の急増、後傾では踵圧、大腿直筋活動、および前脛骨筋活動の急増の知覚における正確性について検討した。さらに、母指球、母指、および踵などの特定の部位を冷却し圧感覚情報を減少させた場合に、前述した知覚の正確性と前傾での母指圧、母指球圧強度の知覚とが受ける影響について検討した。被験者は11名の男子大学生である。前後方向の足圧中心位置、特定部位の足底圧、大腿直筋、前脛骨筋、母指外転筋の筋電図、および感覚情報の変化を知覚したことを申告するためのスイッチ信号を記録した。知覚の正確性は、圧および筋活動の急激な変化を示した足圧中心位置と、スイッチを押した時点から反応時間分戻った時点における足圧中心位置との差によって評価した。圧強度の知覚においては、母指球部、母指部のそれぞれにおいて、安静立位時の圧を「強度0」、前傾による最大圧を「強度10」とし、この間を10段階に分割し、知覚させた。そして、各強度の知覚毎に強度段階を口頭で申告させると同時にスイッチを押させた。知覚強度毎の相対圧についてコントロール条件と冷却条件とで比較した。特定部位の冷却時間は40分とし、冷却したい部位を電子冷却効果により1℃に設定された冷却板に接触させた。冷却は実験中も継続した。実験によって次のような結果が得られた。母指球圧の極大値は全員が知覚できた。これに対して、母指圧の初期急増は全員が知覚できず、足底圧が母指球から母指に移り母指圧が再度急増する後期急増を初期急増として誤知覚していた。母指外転筋、大腿直筋、前脛骨筋のいずれにおいても11名中3名は筋活動の初期急増を正確に知覚することができたが、残りの被験者は初期急増の後にみられる後期急増を初期急増として誤知覚していた。母指球圧の極大値の知覚は、母指球を冷却した場合、母指を冷却した場合のいずれも有意な影響を受けなかった。母指圧の後期急増の知覚は、母指よりも母指球を冷却した場合に有意な影響を受けた。母指外転筋活動の後期急増の知覚は、母指を冷却した場合に有意な影響を受けた。大腿直筋活動の急増の知覚では、踵部の冷却による影響に個人差が認められた。前脛骨筋の後期急増の知覚では、踵部の冷却による有意な影響が認められなかった。母指圧強度の知覚では、母指を冷却した場合には母指圧の初期急増以後の位置で、母指球を冷却した場合には母指球圧の極大値を過ぎた直後の位置で、それぞれ有意な影響が認められた。母指球圧強度の知覚では、母指球を冷却した場合にはほぼ全ての強度において有意な影響が認められたが、母指を冷却した場合の影饗はわずかであった。
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