前年度に引き続き、脳卒中片麻痺患者及び健常者を対象として、両側のヒラメ筋安静時運動細胞興奮性をH反射最大値/M波最大値(H/M最大値比)、H反射閾値/M波閾値(H/M閾値比)及び新指標であるH反射増加率/M波増加率(H/M発達勾配比)を用いて評価した。 その結果、痙縮が著名なBrunnstrom stageIII及びIVの片麻痺患者では、H/M最大値比、H/M発達勾配比は、麻痺側と非麻痺側の比較において有意な差が認められ、その差はH/M発達勾配比において顕著であった。H/M閾値比においては有意な差は認められなかった。一方、健常者では、両側の比較において、いずれの指標にも有意差は認められなかった。さらに、各指標をBrunnstrom stage別に比較すると、H/M発達勾配比はBrunnstrom stageの各ステージにおける痙縮の程度と良くと相関していたが、逆にH/M閾値比は、全く相関していなかった。 以上の結果より、脳卒中患者の痙縮評価において、個体内の比較においてはH/M最大値比、H/M発達勾配比の両者を、個体間で比較する場合にはH/M発達勾配比を用いることで、十分な客観的指標となりうることが示唆された。しかしH/M閾値比は、他の研究においても指摘されているように指標の持つ問題により痙縮の十分な評価指標としては、問題があることが示唆された。さらに安静時では非麻痺側からのH反射を導出できない被験者も麻痺側からは低値ながらも導出できたことより、片麻痺患者では、麻痺側のみで評価するのではなく両側で比較することにより、痙縮をより的確に評価できるものと考えられた。 今後は、痙縮評価において今回有用であることが示されたH/M発達勾配比を用いて、痙縮の発現の原因の一つとして近年注目されているシナプス前抑制との関連について検討していきたい。
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