日常診療において上肢の痺れや疼痛、脱力を訴える症例は非常に多いが、臨床検査等に異常を認めず、診断が確定できないことも少なくない。今回我々はラット上肢牽引モデルを用いて、上肢末梢神経牽引障害の発症機序に関して検討した。 1、電気生理学的検討では、2N・1時間牽引で複合神経活動電位(CNAP)がbasal lineの60%に低下するものの、牽引解除後速やかに回復した。1N・1時間では有意な低下を認めず、5N・1時間牽引では30%に低下するものの、牽引解除30分後でもbasal lineまで回復しなかった。よって、2Nを障害を生じない神経伸張を引き起こすラット前肢の牽引力として選択した。 2、2N・1時間牽引後、腕神経叢は8.6%、正中神経は5.2%の神経伸張を認めた。 3、2N・1時間牽引施行、24時間後のgrasping testでは正常群との差は認められなかった。 4、血液-神経関門・光学顕微鏡による組織学的変化は腕神経叢・正中神経で明らかな差は認められなかった。 5、電子顕微鏡学的検討では、2N・1時間牽引後、腕神経叢で微小管が有意に減少した。正中神経では有意な減少は認められなかった。 微小管は神経軸索輸送に関与する細胞骨格の一つである。電気生理学的に障害を来さない牽引力でも電顕レベルでは微小管の減少を認め、軸索輸送障害の可能性を示唆した。今回の結果から、牽引に対する腕神経叢の易損性が示された。
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