頚髄で脊髄を半切し呼吸に関与する神経回路の可塑的変化を調べた。実験にはネンブタール麻酔下のネコを用い、無菌的に第三頚髄と第四頚髄を露出し一側の脊髄を半切した。手術後動物を1週間から3か月生かしネンブタール麻酔下で急性実験を行った。 3MKClを充填したガラス管微小電極を用いて横隔神経運動ニューロンより細胞内記録を行った。半切側の横隔神経には吸息性神経発射が認められ、呼気ガス二酸化炭素濃度を変化させると吸息性神経発射は良く対応した。切断部の吻側で再度脊髄を半切しても神経発射には変化がなく、対側の脊髄を切断すると消失した。切断側の横隔神経運動ニューロンには吸息相に興奮性シナプス電位EPSPが、呼息相に抑制性シナプス電位IPSPが観察された。これらの結果から脊髄半切後の横隔神経発射の回復には対側を下行する経路の可塑的変化の関与が示唆された。また横隔神経運動ニューロンへの興奮性入力と抑制性入力が共に回復することが明らかになった。吸息と呼息の切り替えに重要な働きをしていると考えられているpost inspiratory phaseは切断側で消失する例が認められた。このことはpost inspiratory phaseが脊髄のレベルにおいて発現している可能性が示唆された。切断面の組織学的解析により半切側では再生した軸索が切断面を超えないことが分かり、横隔神経の吸息性神経発射は対側の健常側を下行してきた軸索が再度、正中を超え切断側の横隔神経運動ニューロンを興奮させていることが示唆された。
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