頚髄で脊髄を半切断し、1週間と3カ月生存後の横隔神経発射の回復を調べた。半切後1週間では半切側の横隔神経には吸息性神経発射が認められるが健常側と比較すると明らかに神経発射は弱かった。さらに神経発射の開始時点を比較すると半切側の開始時点は健常側よりも遅れていた。しかしながら、3カ月生存後の例では切断側の横隔神経発射はほぼ健常側のレベルにまで回復し、神経発射の開始時点はほぼ同時であった。終末呼気二酸化炭素濃度を変化させると神経発射は二酸化炭素濃度の増減に良く対応した。切断部の吻側で再度脊髄を半切しても神経発射には変化がなく対側の脊髄を切断すると消失した。このことから脊髄半切後の横隔神経発射の回復は対側を下行する経路から新たなシナプスが形成されたためにおこったと考えられた。脊髄を半切した動物について半切後7日から90日生かした例について横隔神経運動ニューロンから細胞内記録を行い運動ニューロンに生じている呼吸性シナプス電位を解析した。3MKClを充填したガラス管微小電極を用いて運動ニューロンから細胞内記録を行った。吸息期には自発性にスパイク電位が観察された。吸息相で興奮性シナプス電位(EPSP)が観察され、このシナプス電位の発生する開始時点は健常側の神経発射に一致していた。また呼息相では抑制性シナプス電位(IPSP)が記録できた。切断面の組織学的検査では延髄からの下行性神経線維は切断面を超えないことが分かった。これらのことは半切側の運動ニューロンの呼吸性神経発射は横隔神経核の脊髄レベルで健常側から正中を超えてくる興奮性と抑制性のシナプス入力によって生ずることが分かった。興奮性入力は尾側延髄吸息性ニューロンの可塑性によると考えられるが、呼息相の抑制性入力は、その起源が不明であり今後さらなる研究が必要である。
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