Barre-Lieou症状を呈した、むち打ち損傷患者20人に対して、脳幹誘発電位、重心動揺計、重心眼振図により病態のモニターを行い、受傷後1ヶ月以内の早期より、平衡機能訓練(ニューロ・リハビリテーション)を開始した。また、その背景因子として椎骨脳底動脈循環不全の有無をMRAによって検査した。受傷時の症状は、頭痛、めまい、眼症状、頸部痛、耳鳴り、手足しびれ、手指巧緻性低下などであった。ニューロ・リハビリテーションは、眼球運動、頸部運動、腰部運動、立位、閉眼運動、複合運動(ボール、自転車)より構成され、一日2回、3ヶ月間行った。 結果:3ヵ月後に評価した。重心動揺計または脳幹誘発電位、電気眼振図で、改善傾向がはっきりした症例は、18人(90%)であった。自覚的には、めまい、眼症状は、15人で消失、3人で軽快、2人で残存した。そのうち一人は、めまいが強く、リハビリを毎日行うことができなかった。頭痛は、10人で消失、6人で軽快、4人で残存した。耳鳴りは、8人で消失、7人で軽快、5人で残存した。手指しびれ、巧緻性低下は、10人で消失、5人で軽快、5人で残存した。その後、リハビリを中止し、1年の追跡調査をしたところ、さらに軽快したと答えた人は6人、変化がはっきりしないと答えた人は14人であった。また、背景因子として、椎骨脳底動脈形成不全が存在した例は7人、動脈の流速に左右差を認めたものは9人と高率に存在した。 考察:従来、むち打ち損傷後は、安静を指示されることが多かったが、平衡機能を中心としたリハビリテーションを早期に行うことにより、めまいに対しては、ある一定の効果が期待できると考えられた。それらの指標として、重心動揺計はめまいの種類を明確にし、振動の周波数と分布を見ることで詐病をも鑑別できると考えた。また脳幹誘発電位は神経伝導障害を知ることができ、電気眼振図は、経時的変化の推移を観察するのに有用であった。MRAによる椎骨脳底動脈循環不全の有無は、病態発生の鍵をにぎる大きな因子である可能性が強く、今後予後の研究を含めて行う必要があろう。
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