第1年度に、システムの枠組みを構成するために、1)口形によって伝わる音声情報、2)発音の歪みと歯列の形状の関係、3)聴覚障害者の言語媒体の試用能力についての基礎資料を収集した。第2年度は、これらのうちで、とくに3)聴覚障害者の言語媒体の試用能力について、国立身体障害者リハピリテーションセンターで1991年に行った聴覚障害者のコミュニケーション手段の調査の資料を、補聴器・読唇・指文字・手話の使用能力の年代による変遷に注目して詳細に分析した。その結果、どの言語媒体の使用能力でも、補聴器を常用している人も時々しか使っていない人も、旧い年代より新しい年代の方が高かった。回帰曲線に沿って今後の動向を予測すると、最も新しい年齢層では、使用能力がさらに増えていく。しかし、言語媒体のうちの口話・手話・筆談の使用の比率を分析してみると、個々の聴覚障害者によって著しい偏りがあった。この偏りは年代が新しくなるにつれて少なくなってはいるが、聴覚障害者がマルチメディア通信技術を介しての情報伝達に順応するためには、音響情報に対して残存能力をできる限り活用すること、視覚を通しての画像情報も充分に活用できるように、読唇や、指文字や手話の使用能力を高めておくこと、さらに、文字情報も迅速に処理できるような言語能力を備えておくことなどの、総合的な対応策が必要であると考えられた。
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