牛ウイルス性下痢粘膜病(BVD-MD)の病原因子であるBVD-MDウイルス(BVDV)の遺伝子のポリメラーゼ連鎖反応(PCR)による解析過程で、BVDVの宿主であるウシゲノムDNA上にウイルスE1遺伝子と相同性の高い領域が検出され、BVD-MD発症およびBVDV感染成立においてE1が重要な役割を担っている可能性が前年度までの研究で示唆された。本年度の研究では、BVDVのE1遺伝子を発現ベクターに組み込んで作成したリコンビナントE1(rE1)を用いて、E1の機能とウシ相同遺伝子との関係をさらに詳しく追求した。 ウイルス中和試験に使用されているウシ抗BVDV抗血清を用いたウエスタンブロッティング法によりこのrE1の抗原性状を検索したところ、rE1と抗血清とは反応しなかった。したがって、E1は宿主の免疫機構に認識されないタンパクであり、感染成立あるいは症状発現に何らかの役割を果たしているのではないかと推測された。 また、ウシゲノム中の相同領域の塩基配列を解読し、ジーンバンクに登録されているウシの様々な遺伝子と比較解析したところ、該当する遺伝子は検出されなかった。解読領域の塩基配列中には、イントロン配列を疑わせる領域が散見され、白血球DNAを用いたPCR結果と矛盾する結果も得られた。 前年度までの結果と総合して考察すると、E1はウイルスの中和反応に関与している他の2つの糖タンパクgp48(E0)あるいはgp53(E2)のアンカーとして機能しており、ウシのゲノム中に存在するE1遺伝子と相同性の高い配列はBVDVの接着、侵入などと関わりがある可能性が高いと考えられた。
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