ウシウイルス性下痢粘膜病ウイルス(BVDV)持続感染牛は牛群内での同疾患の大流行を引き起こす感染源である。その摘発のために牛の末梢血白血球(PBL)を用いてBVDV遺伝子のp14およびE1コード領域を検出するポリメラーゼ連鎖反応(PCR)による正確で迅速な診断法が確立されている。この診断法ではPCR増幅パターンにより検出したウイルス型の判別も可能であるが、いずれのウイルス型にも分類されないPCR増幅パターンを示す野外分離株が検出された。そこでPCR増幅パターンとウイルス型別との関連を検討すると共に、BVDVの3つの糖タンパクのうちの一つであるE1の機能を明らかにするため、E1コード領域内に新たにプライマーを設計し、日本の4つのBVDV標準株およびBVDV感染牛から分離した野外分離株3株で得られた同じ大きさのPCR産物の塩基配列およびアミノ酸配列を比較した。その結果、PCR増幅産物の塩基配列およびアミノ酸配列は7株間で非常に高率に保存されており、この領域がウイルス型を決定づけるPCR増幅パターンに関与している可能性は低いと考えられた。また、この領域のアミノ酸配列は疎水性が高く、その疎水性は完全に保存されていた。さらに、供試牛5頭のPBL由来遺伝子上にBVDVのこの増幅領域と相同性の高い配列が認められ、全5頭でその塩基配列は完全に一致した。 以上のことから、本研究で塩基配列を解読したE1コード領域は、アミノ酸配列の疎水性の高さから膜貫通領域を含んでおり、E1はウイルスの中和反応に関与している他の2つの糖タンパクE2あるいはE0のアンカーとして機能している可能性が示唆された。また供試牛全5頭で完全に塩基配列が一致した末梢血白血球由来遺伝子上に認められたBVDVの増幅領域と相同性の高い配列はBVDVの接着、侵入に関わるレセプターをコードする領域の一部ではないかと考えられた。
|