研究概要 |
臨床的に顆粒膜細胞腫が疑われ,本症と診断された雌馬を材料に研究を行い,以下のような成果を得た.罹患卵巣の超音波画像診断によって,多数の卵胞様構造物が形成されていること,その大きさは正常な卵胞に比べて非常に大きいこと,一方,反対側の卵巣は萎縮していて少数の小さな卵胞しか存在していないことを認めた.また,手術後には萎縮状態であった反対側の卵巣は活動を再開し,正常な雌馬と同様に3・4個の卵胞が発育することを認めた.罹患卵巣中の卵胞様構造物の免疫染色の結果,いずれの症例においてもINH・βA,INH・βBおよびアロマターゼ(arom)は染色されず,本症例では存在しないことが明かとなった.一方,INH・αについては一部の卵胞様構造物で染色像が認められた.これらの結果から,顆粒膜細胞腫に罹患した卵巣では下垂体で合成される卵胞刺激ホルモン(FSH)の分泌を抑制することができるインヒビンが産生されていないことを示すものと思われた.罹患卵巣摘出手術前後の血中ホルモン濃度の変化では,顕著な動態を示すものはインヒビン濃度の変化で,いずれも摘出手術後に急速に減少することを認めた.これらの結果は,顆粒膜細胞腫に罹患している雌馬の血中には高濃度のインヒビンが存在していて,インヒビン濃度を測定することによって,顆粒膜細胞腫における精度の高い診断が可能であること,手術後には急速に低下することからこのインヒビンの産生母地が罹患卵巣中の卵胞様構造物であるこど,およびホルモン測定によって検出されるインヒビンには卵胞刺激ホルモン(FSH)濃度を抑制できるような生物活性がないことを示すものと思われた.罹患卵巣摘出後発情が回帰するまでの長期間の血中性ステロイドホルモン濃度の変化において,手術後約6か月になって,罹患卵巣とは反対側の,罹患卵巣摘出前は萎縮した状態であった卵巣の活動が再開して,血中性ステロイドホルモン(エストロジェンとプロジエステロン)濃度が卵巣活動の動態と一致して上昇および下降していることを認めた.
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