僧帽弁閉鎖不全症は、その進行に伴って心筋の線維化が問題となっている。心筋の線維化は、交感神経の興奮、冠循環の低下、レニン-アンギオテンシン系の亢進によることが報告されている。本研究においては僧帽弁閉鎖不全症のモデル犬を用いて自律神経調節と心機能について検討した。1.犬の僧帽弁閉鎖不全症モデルにおける血中カテコールアミンを測定した結果、右側横臥位安静時の血中エピネフリンならびにノルエピネフリンは正常犬に比較して僧帽弁閉鎖不全症モデル犬が有意に高値を示した。立位においては、エピネフリンで両群間に差を認めなかったものの、ノルエピネフリンでは安静時と同様に僧帽弁閉鎖不全症が有意に高値を示した。3分間の疾走直後では、エピネフリンは両群ともに大きな変化を認めなかったが、ノルエピネフリンは両群ともに増加した。2.僧帽弁閉鎖不全症にドブタミン(10μg/kg/min)を5分間投与して心機能を正常犬と比較した。その結果、心拍数ならびに血圧は両群ともに変化を認めなかった。しかし、左心室短縮率、左心室駆出率ならびに心拍出量においては、正常犬に比較して僧帽弁閉鎖不全症犬で有意に低下した。このことから僧帽弁閉鎖不全症においては、外因性カテコールアミンに対する心収縮力の反応性あるいは予備力が低下している可能性が示唆された。3.僧帽弁閉鎖不全モデル犬の自律神経を薬理的に遮断した結果、心拍数の調節はβ_2受容体が大きく関与しており、心収縮力に関してはβ_1受容体が関わっていることが示唆された。不全心における酸素消費量を低下させるためには心拍数を低下が必要であるが、β_1選択性のβ遮断薬に比較して非選択性のβ遮断薬が犬の心不全治療には適している可能性がこの研究により明らかにされた。
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