本研究の目的はゲームのダイナミクスを追求する新しいモデルを提案し、そのモデル・シミュレーションを通じて、学習や進化を考える上での新しい視点、相手のモデルの生成やゲームのルーそのものの生成やを論じようというものであった。2年間の研究期間を通じて次のような成果をあげることができた。 1.ゲームのプレイヤーが相手のプレイヤーのモデルをつくり、そのモデルをもとに将来を予測しながらゲームをする状況を計算機の中で扱った。このモデルをもとに、囚人のジレンマゲームや空間ゲーム、さらに談話のモデルを扱った。また相手のモデルが時間とともに変遷してしまう問題をチューリングテストの力学系版モデルとして扱った。 2.ゲームの規則と、ゲームの戦略をラムダ式で表現することで、規則と戦略の間に干渉を起こし、結果としてゲームの規則が書き換えられてしてしまうモデルを提案できた。その干渉の仕方から戦略のパターンが3つに分類できる。 3.談話の時間発展を動的認識システムでモデル化し、談話規則の変遷を議論した。談話の数理的構造をきちんと扱った研究としては最初で、これらの結果は今年度中に複数発表予定である。 4.戦略と規則の区別や、談話の規則と話者の意図の区別は、つねに外部から与えられているが、ここではそれを内部的に発生するものとして与えている。そのためにそうした区別は揺らいでしまう。こうした広く意味と文法の分離不可分な様相は、細胞の膜と内部反応の共進化や自己と非自己を認識する免疫系のモデルにみることができる。進化可能性はそうした中で再考されねばならない。 ゲームの規則を与えても、ゲームの発展は規則からは予測分からないような動的な複雑さを示す。こうしたことは人工生命の研究のテーマでもあり、また複雑系が掲げる「Synthetic Complexity」の具体的な研究例となっている。これは相互作用がつくり出す複雑さであり、形式遺伝子の持つ組合せ的複雑さとは質的に異なるものである。さらに古典的計算論が示す(時間的)複雑さと力学系の示す複雑さを橋渡ししつつ、例えばカオス的遍歴現象などの力学系の新しい性質を、認知現象を理解するための概念装置として確立していくことが必要である、と考えている。
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