研究概要 |
研究をすすめている抽象化学反応系(以下ではARMS)に膜の概念を導入し膜計算モデル(Active Cell System(ACS))を構築した.膜は任意に定義された抽象化学物質(界面活性剤に対応する)の濃度がある閾値を超えると生成される.計算機実験を通してACS内に出現する細胞内に細胞周期様の現象が出現することを発見し,また,化学反応の種類によって細胞の状態をクラス分けすることに成功した.また,ACSを用いた疑似的な化学進化の計算機実験においてランダムに生成された細胞が淘汰進化をうけ,いくつかのグループを形成することを発見し,その進化過程がウイルス進化と類似していることがわかった.また,細胞分裂時に疑似的な触媒に突然変異を加えたところ,単純な構造から内部構造をもつ細胞に進化するに従い,触媒の膜物質生成能力が低くなることを発見した.また,この疑似的な触媒を遺伝的プログラミング的手法へ応用し,足し算を行う疑似的な細胞を生成することに成功した.本システムとほぼ同様の数学モデルがG.Paun(ルーマニアアカデミー数学研究所上級研究員)によっても提案されていることを知り(P Systems),以降共同研究を行っている.そして,ある種のACSの計算能力がチューリングマシンと同等であるなどの成果をあげた.また,高林純示(京都大学農学研究科助教授)とARMSを3者(植物,食植者,補食者)化学生態系モデル解析に用い,食害をうけた植物が発する化学物質が3者系の共存に重要な役割を果たしている可能性を示唆した.
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