本研究はあるクラスの反応拡散系に生じる新しいタイプの複雑な時空構造に関する研究を目的としている。この種の反応拡散系は、少なくとも3成分を含み、直接的拡散結合をもたないリミットサイクル振動子が拡散性第三成分の媒介によって非局所的間接相互作用をもつような系と見ることができ、したがって非局所結合複素Ginzburg-Landauモデルのような非局所結合モデルの解析からもその新しい挙動を定性的にさぐることができる。本年度はこのような反応拡散モデルや縮約モデルにおいて「位相特異性を持たない回転スパイラル波」という新しい現象を見出した。二成分反応拡散系などにおける通常のスパイラル波との違いは回転中心からある距離以内の振動子群がパターンの定常回転に同期できず、それらが個別運動(準周期運動)を行うという点にある。個別運動は振動子ごとに異なる振動数をもつために、コア領域ではまったパターンは非常に乱れている。このようにパターンは周辺領域のcoherentな部分と中心付近のincoherentな部分の共存によってあらわされる。これとは対照的に、非局所結合による内部場のパターンはほぼ定常回転している。非局所結合系は個別振動子が共通の内部場に駆動(今の場合は周期的駆動)された系と見なすことができるため、内部場と個別運動との間に成り立つセルフコンシステントな関係からパターンの統計理論を構築することができると期待され、現在その定式化と数値解析によるその妥当性の検証にとりかかっている。
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