本研究では、フラクタル上での波動および拡散を記述するための数学的基礎理論に関して主に次の5つのテーマに関して成果をえた。 (1)self-similar set上のDirichlet formのMarkov性について Kusuoka-Zhouによってself-similar set上に構成されたself-similar Dirichlet formのMarkov性を証明した。 (2)p.c.f.self-similar set上のLaplacianに付随するvolume measureの自己相似性について 作用素論的traceを用いて定義されたvolume measureが自己相似測度に成るための十分条件を導き、Sierpinski gasket上のstandard Laplacianについてその十分条件を示した。 (3)p.c.f.self-similar set上のLaplacianに付随するGreen関数の研究 Green関数の対角成分の値を帰納的に求めるアルゴリズムを発見し、それを用いてGreen関数の最大値を与える点の位置について研究した。 (4)フラクタル上の熱核に関するVaradhan型の短時間評価、およびこの拡散過程に関するSchilder型の大偏差原理 Sierpinski gasket上のブラウン運動に対して、Varadhan型の短時間評価、およびこの拡散過程に関するSchilder型の大偏差原理が成立しないことを証明した。 (5)フラクタル上の熱核の漸近挙動に現れるマルチフラクタルの研究 フラクタル上の熱核の時刻0での漸近挙動が一般には各点ごとに異なることを示し、さらに各点ごとの漸近指数がマルチフラクタル性を持つことを明らかにした。
|