平成11年度に行った細胞集合体の運動のシミュレーションで、駆動力の大きさの異なる2種類の細胞が集合体中で分離運動する様子を調べたが、今年度はこれを一般化し、駆動力、抵抗係数及びランダム運動の大きさの異なる多種類の細胞の分離パターンについて考察を行った。なお、この研究は京都大学理学研究科の井上敬講師と共同で行った。 簡易モデルについての理論的解析で、細胞種が次のような定常分布を持つことが示された:(1)駆動力の大きな細胞種ほどペースメーカーの近くに分布する、(2)運動に対する抵抗の大きな細胞種は後部に尾を引いた分布になる、(3)ランダム運動の度合いの強い細胞種は他の細胞種の領域に侵食しやすい、(4)細胞種間の境界はペースメーカーの後側の位置で不明瞭になりやすい。さらに、平成11年度に開発した方法を用いて、4つの細胞種を仮定した集合体運動のシミュレーションを行った。その結果、細胞種が分離し、解析的に予測された定常分布パターンになるとともに、集合体全体が細長く伸び、最終的に現実の細胞性粘菌移動体の細胞分布パターンに近い分布が得られることがわかった。これらの結果は、細胞性粘菌で実験的に観測されている4つの細胞種(PstA、PstB、PstO、Psp)の選別パターンが細胞の力学的性質の違いで生じることを示唆している。 これらの結果を、スコットランドで行われたInternational Dictyostelium Conference Dicty 2000で発表した。また、現在論文を投稿準備中である。
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