研究概要 |
本研究の目的は,シナプスの可塑的な変化を起こしたラット海馬CA1領野の活動のダイナミカルな性質を明らかにすることである。平成11年度の研究計画・方法に従って,麻酔をかけたラット(10週齢)を用い,新皮質を除いて露出させた海馬CA1領野からマルチ電極で電場電位を多点同時記録した。刺激位置としてはCA3領野を選び,20Hzの繰り返しパルス電流刺激を加えた。 繰り返し刺激の最初のパルス刺激によってCA1領野表面に生じたシャッファーシナプスのpEPSPは空間的に一様であった。その後,数回〜数十回パルス刺激を繰り返すと,ある限られた領域でpEPSPが加重し,集合活動電位が生じた(A相)。さらに繰り返し刺激を続けると,pEPSPが減少し一時的に集合活動電位が生じなくなるが(B相),その後再び集合活動電位が生じるようになった(C相)。 各相でのシナプスの可塑的な変化を調べると,A相ではpEPSPは変化していなかったが,B相でpEPSPのわずかな抑圧が起き,C相でpEPSPの大きな抑圧が起きた。この抑圧はCA1領野の反回性抑制の増強を反映したものだと推察される。すなわち,記憶の座としてのシナプスの可塑的な変化は,反回性興奮回路ではなく反回性抑制回路で生じている可能性がある。pEPSPの抑圧が起きたC相では,多シナプス回路が関与した活動であることやリバウンド興奮であることを反映し,複雑な応答を起こした。また,CA3を周期刺激する事の妥当性を示すため,CA3領野のLTPと周期的自発リズムに関しても新たな知見を得た。 平成12年度は,研究計画・方法に従って,シナプスの可塑的変化が起きているC相の複雑な応答のダイナミカルな性質を明らかにする予定である。
|