本年度は、京都大学佐野光真氏を研究協力者とし、また日本学術振興会外国人招聘究者として来日したvan Beijeren氏とともに、一次元シート模型の輸送について数値的に調べた。この系は、調和振動を行っている剛体球が隣同上で衝突する模型と等価である。熱伝導について、平衡状態における物理量の二乗変位(グリーン久保公式)および非平衡条件下における熱伝導の両方について数値的に調べたところ、シート数が300程度で、熱伝導係数がサイズ依存しなくなり、正常な輸送系であることが判明した。また、輸送係数の温度依存性が、温度の2/3乗であることも判明した。 輸送係数が正常であることの根拠そして、この系を調和振動と剛体球の運動とすると、並進対称性が無くなる。これは、運動量の保存する系では輸送係数が異常性をもつという最近の一般的証明と対応している。ただし、平衡状態における熱変位の二乗平均が拡散的になる時間は、系の大きさとともに増大する。 これらのことを説明する模型として、運動論的模型を検討した。まず、各平衡位置のまわりでのシートの変位に対する一体分布関数は、エネルギーの大きさによって異なる振る舞いをするものと考える。低エネルギーでは、間欠的に隣同士が衝突するので、熱はソリトン的に伝搬していくものと考えられる。逆に高エネルギーでは一回の衝突における速度変化の割合いは小さいので、フォッカープランク的に振る舞うであろう、と考えられる。衝突確率を隣り合うシートの二体相関関数で近似すると一応のオーダーを評価することができる。
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