真核細胞中で、DNAは、ヒストンタンパク質の作用により高次に凝縮してクロマチンを形成しており、この折り畳み構造がどのように制御されているかが、遺伝子発現のメカニズムを考える上でも重要である。これまで、蛍光顕微鏡と電子顕微鏡を活用することにより、個々のDNAの折り畳み構造がどのように制御されているかをin vitroの実験から系統的に調べてきた。 今回、具体的な成果として、DNAに損傷を与えない波長(1064nm)のレーザーを用いて、ビーズ等をつけることなく無修飾の状態で直接DNA-ヒストンH1複合体を捕捉し、塩濃度の違う溶液間をレーザーで搬送して折り畳み構造を制御することに成功した。具体的には、顕微鏡のステージ上で塩濃度の違う溶液を接触させ、低塩濃度溶液中に加えた凝縮DNA-ヒストンH1複合体をレーザーて捕捉し、高塩濃度の溶液中まで搬送した。高塩濃度下でDNAはヒストンH1が外れてコイル状にほどかれるが、もう一度低塩濃度の溶液まで搬送すると再びヒストンH1の作用で凝縮した。本方法は、レーザーで環境条件の違う溶液間を搬送してDNAの構造制御を行うことが可能であることを初めて明らかにしたものであり、生命科学の研究において広く応用が期待できるものである。今後も、さらに今回の結果を踏まえて、DNAの折り畳み構造と生物学的機能の関係を追究していきたいと考えている。
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