血小板由来増殖因子(PDGF)α受容体に特異的な自己リン酸化チロシン762に結合するCrkファミリーの蛋白を同定した。CrkIIはSH2配列を介してαβ両受容体と結合するが、CrkIIのリン酸化とともにβ受容体からは解離することが明らかとなった。CrkIIはその分子上に受容体刺激後にリン酸化されるチロシン残基を有しており、この部位がリン酸化すると自らのSH2配列に認識されβ受容体から解離する可能性が考えられた。α受容体を刺激した後でもCrkIIはリン酸化されるにもかかわらず、なぜα受容体には結合し続けるのかは今のところ明らかではないが、Y762の周辺の構造が、β受容体のY771あるいはCrkII分子上のリン酸化部位周辺に比較して、CrkのSH2配列との結合親和性が高い可能性が考えられる。ところで、Crkが受容体シグナル伝達において何をしているか、という点に関しては、少なくとも増殖・遊走・MAPKおよびRap1の活性化などを検討した範囲では、野性型とY762Fミュータントとの明らかな差異が認められなかったため、残念ながら今のところ不明である。現在までの研究により、PDGF受容体の新しい細胞内シグナル伝達因子としてCrkファミリーを同定し、その活性化機構を明らかにすることに成功した。しかし残念なことに、この因子は遊走シグナル伝達には関与していなかった。今後さらに研究を進め、実際にPDGFα受容体の細胞遊走抑制作用を仲介するシグナル伝達因子の同定を行う必要がある。
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