研究概要 |
初年度はアルドステロンの有する心筋繊維化作用、アンジオテンシンIIの平滑筋増殖促進作用について検討した。最終年度は鉱質コルチコイド受容体の役割と11β-HSD酵素系の関与を検討した。即ち、血管壁においてはコルチゾールがアルドステロンと同様に血管トーヌスの調節に関与することを明らかにした。実験方法としてヒト冠状動脈血管平滑筋細胞(HCASMC)を用い、11β-HSDの遺伝子発現はRT-PCR法で確認した。Oxo-reductaseならびにDehydrogenase活性は[3H]で標識したEおよびFを細胞培養液中に添加し、各々E-F,F-Eへの変換率で算出した。さらにこの酵素活性が生理的濃度のコルチゾール存在下でAngII結合能に及ぼす影響を検討した。この目的のために11β-HSD2に対する特異的なアンチセンスDNAを前投与しdehydrogenase活性のみを低下させた。その結果、HCASMCには11β-HSDが発現しており、活性は両方向性でoxo-reductase活性はdehydrogenase活性の約2倍であった。この細胞にはsingle classのAT_1Rがあり(Bmax=468±21sites/cell,Kd=0.31±0.06nM)、Fの投与でAngII結合数は約2倍に増加しup-regulationが認められた。AngII結合はグルココルチコイド受容体拮抗剤(RU486)でほぼ完全に抑制された。アンチセンスDNAにより11β-HSD2活性を阻害しておくと、同様のF投与によるAngII結合はコントロールと比較して約2.5倍に増加した。RU486単独ではその増加分の約70%の抑制に留まり、残り約30%はMC受容体拮抗剤であるスピロノラクトンの共存下で初めて抑制された。 この成績は、コルチゾールはアンジオテンシンIIの受容体数を増加させることにより血管抵抗を増大させること,コルチゾールの血管作用は局在する11β-HSDにより制御されていること、11β-HSD2活性の低下時には鉱質コルチコイド受容体を介してコルチゾールの血管作用がさらに増強することを示している。
|