他の増殖可能な細胞と異なり心筋細胞は様々な刺激に反応して肥大を起し、その集合器官である心臓は収縮機能不全に陥る。心不全は高血圧性疾患、特発性心筋症、虚血性心疾患など種々の心疾患の共通最終像であり、この問題を解決することは臨床的に極めて重要であると考えられる。これまでの研究によると、生体において何らかのストレスが心臓に加わると、交感神経系、レニン・アンジオテンシン系、エンドセリン系などの神経・体液・内分泌因子が作動することが明らかとなってきている。これらの因子は心筋細胞膜に存在するそれぞれの受容体に結合し、種々の細胞質内情報伝達を経て刺激は最終的に心筋細胞核に到達する。そして核内において何らかの転写調節因子が活性化されることにより、心筋細胞は成人型から胎児型へと遺伝子発現パターンを変化させる。これらの変化は種々の因子によって引き起こされる心筋細胞肥大に共通の変化であり、また心筋機能不全と密接に結び付いていることから、この核内情報伝達機構の詳細な解明は心不全の分子細胞レベルでの解明と根本的な治療法の開発に非常に有用である。我々は心筋遺伝子直接注射法を用い成人ラットにおいてin vivo圧負荷に反応するプロモーターエレメントを解析する方法を初めて確立した。そして詳細な検討の結果、肥大における遺伝子発現調節にGATA転写因子群が中心的な役割を果たしていること、転写コアクチベーターであるp300がGATA因子と結合し、相協力して心筋遺伝子の転写に関与していることを見出した。
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