単球の血管内膜への侵入は動脈硬化病変形成や炎症反応における初期段階において重要な役割を持っている。CCR2やMCP-1ノックアウトマウスの研究から、これらの分子が動脈硬化や免疫反応において主要な役割を演じていることが明らかとなった。しかしながら、単球遊走にわけるMCP-1/CCR2を介した情報伝達機構の分子機構に関しては、十分に理解されているとはいいがたい。その分子機構を明らかにするため、単球系細胞株であるTHP-1細胞を用いて、チロシンキナーゼPyk2の役割を検討した。Pyk2はMCP-1により、時間依存性にチロシンリン酸化を受けることが明らかとなった。また、Lyn、Shc、パキシリンなどのシグナル分子もまたMCP-1により、チロシンリン酸化を受け、Pyk2とコンプレックスを形成していることが明らかとなった。しかし、MCP-1によりPyk2との結合が増加するのはLynだけであった。また、pyk2のドミナンネガティヴ変異体により、MCP-1によるp38MAPキナーゼの活性化は抑制されたが、同じくMAPキナーゼであるERKの活性化は抑制をうけなかった。これらの結果よりPyk2がキー分子となってMCP-1/CCR2に由来するシグナルを下流に伝達していると考えられる。今後はさらにPyk2の役割に関する検討を進める。 また、我々はMCP-1によるインテグリンの活性化と細胞遊走の分子機構に関しても検討した。MCP-1を介するインテグリンの活性化はMEK阻害剤により抑制され、細胞遊走はp38MAPキナーゼの阻害剤により、抑制された。Rhoの阻害剤はMCP-1依存性の細胞遊走は抑制したが、インテグリンの活性化には影響を与えなかった。これらの結果より、ERKとp38MAPキナーゼの2つのMAPキナーゼにより細胞接着と細胞遊走が別々に制御されていることが明らかになった。今後はさらにこれらのMAPキナーゼの下流のシグナルの解析を行う。
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