心臓の発生・分化過程で出現してくる遺伝子群の発現調節ネットワーク機構を解明することを目的として2種類の遺伝子に着目した。第一は心臓特異的遺伝子群に存在する発現調節DNAエレメント、CArG boxに結合するSRF(血清誘導因子)である。マウスSRF遺伝子を欠損したマウス個体を作製する計画のもと、SRF遺伝子を臓器または発生時期特異的に欠失させるため、Cre-loxPシステムを採用した。まず、ヒト心臓特異的アクチン及び血管平滑筋特異的アクチンのプロモータからCreを発現するトランスジェニックマウスを作成した。胎令11.5日のマウス個体での心臓特異的アクチン遺伝子の制御システムからのCreの発現は心臓、舌、骨格筋で見られるのに対して、血管平滑筋特異的アクチン制御システムからのものは心臓、大動脈に限られていた。これらのトランスジェニックマウスを用いて心臓特異的にSRF遺伝子欠損を生じるマウスを作成する実験を進めている。第二は、ショウジョウバエのホメオティック遺伝子群の発現維持を担っているポリコーム遺伝子群の一つで、ポリホメオティック遺伝子のマウス相同遺伝子rae28である。rae28遺伝子欠損マウスでは心臓の形態形成異常がみられる。心臓の発生過程においては、心臓特異的ホメオボックス遺伝子Nkx2.5が下流に存在することをNKX2.5との遺伝学的相補実験によって証明するとともに、個体全体にrae28を発現するトランスジェニックマウスと心筋特異的にrae28を発現するトランスジェニックマウスを作製し、rae28の発現がrae28欠損マウスにおける心臓の表現型とNkx2.5の発現異常の相補性を検討し、rae28がnon-cell-autonomousな経路でNkx2.5の発現維持に関与していることを明らかにした。
|