研究概要 |
トロンボモジュリン(thrombomodulin, TM)は血管内皮細胞の膜表面に発現し,抗血栓機能を有する糖たんぱく質である.動脈硬化巣に蓄積する酸化LDLはTMの遺伝子転写活性を抑制し発現量を低下させることが知られており,動脈硬化巣で血栓が発症する原因のひとつと考えられている.本研究では酸化LDLがTM遺伝子の転写を抑制する機序を明らかにし,このTM発現低下に対するアンチトロンビン-IIIの抑制効果を検討した.その結果,以下の成果を得た. 1.酸化LDL脂質画分中の酸化リン脂質がTM遺伝子転写を抑制していることが明らかになった. 2.TM遺伝子の5'-flanking regionにはレチノイン酸応答配列およびSp1結合配列がある.ゲルシフトアッセイの結果,酸化LDLはレチノイン酸結合たんぱく質(RAR,RXR)およびSp1の細胞内での発現量を低下させ,その結果レチノイン酸応答配列へのRAR,RXRの結合およびSp1結合配列へのSp1の結合を低下させていることが明らかになった. 3.酸化LDLによるTM発現低下をアンチトロンビン-IIIが抑制する作用は認められなかった. 本研究成果は動脈硬化巣で血栓が生じやすいひとつの原因として,動脈硬化巣に蓄積する酸化LDLがレチノイン酸結合たんぱく質およびSp1の発現低下を介して内皮細胞表面でのTM発現量を低下させることによる機序を明示した.しかし,期待したアンチトロンビン-IIIのTM発現低下抑制は認められなかった.
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