私たちは、本研究において昨年までにAngII 1型受容体(AT1)によるEGF受容体の共役化機構を明らかにしてきた。特にEGF受容体の自己燐酸化がAT1刺激によるERKの活性化の下流に存在する細胞内シグナルであることを証明した。 本年度は以下の実験を行い、結果を得ることができた。 (1)EGF共役活性化を介した遺伝子発現 AT1による各種遺伝子発現へのEGF共役活性化の関与を検討した。c-fos、fibronectin(FN)、遺伝子発現を各々8倍、5倍に増加することが明らかになった。FNの増加作用はEGF受容体の特異的拮抗薬であるAG1478の添加で完全に阻害された。さらに昨年度の研究で用いたEGF受容体のチロシン燐酸化部位を欠失したHEGFR533delをリポフェクタミン法で心筋線維芽細胞に導入した結果、AT1によるFN発現は完全に抑制された。また、培養液中に分泌されたFN蛋白も正常対照群に比し、有意に抑制された。 (2)AT1によるFN発現誘導に対するEGF共役活性化の役割 FN遺伝子のプロモーター領域をCATレポーター遺伝子に連結し、心筋線維芽細胞に導入した。結果、FN遺伝子に存在する2ヶ所のAP-1領域のうち、-453bpに存在するAP-1配列を欠失したレポーター遺伝子ではAT1によるCAT活性の増加が見られなかった。また、細胞の核抽出液を使用し、同部位のAP-1配列をプローブとしてゲルシフト法を行い、AngIIによりシフトするバンドが得られた。したがって、この部位のAP-1配列がAT1による刺激を介在していると考えられた。さらに重要なこととして、AG1478による前処置はAngIIによるCAT活性の増加ならびにゲルシフト法によるプローブの移動いずれをも抑制し得た。 以上のことより、AT1によるFN遺伝子誘導において、EGF共役活性化は重要な働きを有していることが明らかとなった。
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