誘導型シクロオキシゲナーゼ(COX-2)は、プロスタグランジン(PG)産生の律速酵素であり、種々の刺激により誘導されることから、その生体内の意義について広く関心が持たれている。また実際、COX-2選択的阻害剤はもう一つのアイソザイムであるCOX-1活性阻害に起因する副作用の少ない非ステロイド性抗炎症薬として注目を集めている。循環器系においては、プロスタサイクリン(PGI_2)とそれに拮抗する作用を持つトロンボキサン(TXA_2)産生のバランスがホメオスタシスに重要であり、そのバランスの破綻が動脈硬化症をはじめとする様々な病態と関連しているが、いずれの場合もCOX-2の発現が重要な役割を演じている。そこで、研究代表者はPGI_2を産生する血管内皮細胞とTXA_2、PGE_2を産生するマクロファージ系U937細胞でのCOX-2発現の相違に注目して、研究を進めている。一方、循環器系疾患との関わりで注目されている核内受容体型転写因子PPARγは特殊なPGを内因性リガンドとすることがわかってきた。 そこで、本研究は心血管系におけるCOX-2の意義をPPARγとの相互作用の観点から明らかにすることを目的とした。その結果、特にマクロファージにおけるCOX-2発現は自分自身で合成されたPGD_2代謝産物がPPARγのリガンドとして作用することによって負のフィードバック制御を受けることが強く示唆された。なお、血管内皮細胞でのCOX-2の発現はこのような調節を受けていないことを見出したが、癌細胞や線維芽細胞などその他の細胞とも異なっており、血管内皮細胞固有な特徴を有していた。 今回見出した、特にマクロファージ系細胞におけるPPARγを介するCOX-2発現の調節は今までに報告されていない新しい調節機構であり、心血管系におけるCOX-2の役割を考える上で、重要な知見となると考えられた。
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