雌性ホルモン様の作用を示す内分泌かく乱物質の精子形成に与える影響を解析するために、先ず雌性ホルモンの精子形成に与える影響をウナギを用いて解析した。雄ウナギの血液中の雌性ホルモン:エストラダイオール17β(E2)量を測定したところ、精子形成の何れの時期でもE2が200pg/ml前後の濃度で認められた。また、ウナギ精巣でのエストロジェンレセプター(ER)mRNAの発現の有無を、ノーザンおよびin situ ハイブリダイゼーションにより調べたところ、ERmRNAは生殖細胞に接する体細胞であるセルトリ細胞に発現していた。これらのことから、E2が精子形成の制御に関わる可能性が考えられた。そこで、雄ウナギに対し、E2またはエストロジェンの競争阻害剤であるタモキシフェンを投与し、E2の精子形成に与える影響を観察した、その結果E2は精原細胞の増殖を誘導することが明らかとなった。この結果は、生体外精巣器官培養系による実験でも再現された。しかし、E2によって増殖した精原細胞のほとんどは、後期B型精原細胞にはならないこと、血中のE2の存在時期が、11KTによって引き起こされる精子形成開始前からであることから考えて、E2の精子形成への作用は、いわゆる精原幹細胞の増殖誘導であることが予想された。 上述のように、E2がセルトリ細胞を介して精原細胞に作用することが明らかになったので、mRNAの発現量の違いからcDNAクローンをクローニングする手法であるリプレゼンテーショナル・ディフェレンス・アナリシス(RDA)法により、E2の刺激により精巣で発現が誘導されるcDNAクローンのクローニングを開始した。
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