雌性ホルモン様の作用を示す内分泌かく乱物質の精子形成に与える影響を解析するために、先ず雌性ホルモン:エストラジオール-17β(E2)の精子形成に与える影響をウナギを用いて解析した。その結果、E2は精原幹細胞の再生分裂を制御するステロイドホルモンであることが明らかとなった。 E2以降の制御機構を調べる目的で、E2の刺激により精巣での発現が変化する遺伝子のクローニングを遺伝子発現差解析法(RDA法)により行った。その結果、E2の刺激によって精巣での発現が誘導されるウナギ精子形成関連因子(eSRS)34のcDNAクローニングに成功した。eSRS34の組換え体タンパク(r-eSRS34)をバキュロウイルスの発現系により作製し、その作用を精巣器官培養で調べたところ、r-eSRS34は、E2と同様精原幹細胞の再生増殖分裂を誘導した。以上より、精原幹細胞の再生分裂は、E2の刺激によって発現が誘導されるeSRS34によって制御されているものと考えられた。 雌性ホルモン様に作用すると考えられる内分泌かく乱物質のうちジェチルスチルベストロール(DES)、ノニルフェノール(NP)およびビスフェノールA(BA)の精子形成に与える影響を、ウナギの精巣器官培養系を用いて解析した。DES、NP、およびBAは、それぞれ精原幹細胞の再生増殖分裂を誘導したが、これらの化学物質の単独処理では、E2様の効果以外には精巣組織に与える顕著な作用は認められなかった。しかし、精子形成誘起雄性ホルモン:11-ケトテストステロン(11-KT)の存在下で、これらの化学物質を作用させると、DESおよびNPでは、セルトリ細胞の食細胞化を思わせる著しい肥大化が観察され、その結果として精巣片中に含まれる生殖細胞の割合が、著しく減少した。
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