本研究は内分泌かく乱物質の野生生物に対する影響について検討するためのモニタリングシステムを、野生メダカを用いて行う可能性を探るとともに、近交系メダカを用いたより再現性の高い内分泌かく乱物質の生物検定システムを開発することを目的としている。本年度は昨年度の成果に基づいて、以下のような成果を得た。 (1)近交系メダカ間でのエストロゲンによる性転換能の系統差 前年度の予備的な結果を追認するために、南日本集団由来のHd-rR系統、北日本由来のHNI系統、さらにHd-rR系統にHNI系統のY染色体を導入した、コンジェニック系統の3つについて、胚のエストラジオール処理による性転換率を比較した。その結果、HNI系統とコンジェニック系統はHd-rR系統に比べて、顕著に性転換しにくい系統であることが確認された。 (2)ビテロゲニン合成検出システムの整備 メダカのビテロゲニン合成をELISA法による検出を試みた。試料として血清、筋肉抽出液を用いた。まず、血清を得るために幾つかの採血法を試み、尾動脈、および尾静脈からの採血法を確立した。測定の結果、エストラジオール処理開始後7日以内にビテロゲニン量の顕著な増大が認められ、その後、処理を継続することにより漸増する、エストラジオール処理濃度(0.001〜1.0μg/L)に応じて合成量は増加する、性転換で認められた顕著な系統差は認められないことが判った。 以上により、性転換能で認められる系統差は性決定機構関連のものであり、エストロゲン感受性一般のものでないことが推論された。また、エストロゲン感受性は何を指標とするかによって、その感受性が変動することがあり得ることが明らかになった。
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