本研究は、野生メダカを用いて内分泌かく乱物質の影響のモニタリングを行う可能性を探るとともに、近交系メダカを用いた再現性の高い内分泌かく乱物質検定システムを開発することを目的として研究を行い、以下のような成果を得た。 (1)メダカに共通の雄の遺伝子マーカーを開発し、野生メダカの遺伝的性と表現型としての性との関係を調べる方法を確立した。そのマーカーを用いて、野生集団のメダカを調べ、性決定性分化関連道伝子の突然変異を3つ同定した。 (2)野生メダカのビテロゲニン量の周年変化をELIZA法により測定した。その結果、オスではビテロゲニンは通年検出限界以下であるのに対して、メスでは繁殖期に高い値を、秋から冬の非繁殖期には低い値を示すことが判った。エストロゲン作用を持つ物質を投与するとオスでビテロゲニン産生が始まることを考え併せると、野生メダカのオスのビテロゲニン値は環境中の内分泌かく乱物質の存在示す指標として有効であることが確認された。 (3)性転換を指標としたエストロゲン感受性の系統差を検討した。その結果、エストロゲンによる性転換には近交系で間で差があること、また、コンジェニック系統、組み換え系統を利用した研究から、性転換に関わるエストロゲン感受性遺伝因子がY染色体上に存在し、性決定領域と極めて強く連鎖していることが明らかになった。 (4)血清ビテロゲニンを指標としたエストロゲン感受性の系統差を検討した。エストロゲンを投与した際のビテロゲニン産生動態を確認し、血清中のビテロゲニン産生を指標とした場合のエストロゲン感受性には性転換の場合のような系統差が認められないことを明らかにした。 以上の研究から、血清中のビテロゲニンが内分泌かく乱の指標として有用であることを確認し、血清中のビテロゲニン量を評価するための基礎的データを集積した。また、ビテロゲニンを指標としたエストロゲン感受性と、性転換を指標としたエストロゲン感受性には必ずしも平行関係がないことを示し、ビテロゲニンを指標とする場合、それはあくまで生物検定指標であり、エストロゲン感受性の一面を表すものであることにについて留意が必要であるが明らかになった。
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