内分泌かく乱作用が示されたり、作用が疑われたりされている物質は約70種である。その一部について、環境中の濃度が測定されているが、野生動物や人体に対する総合的な影響を直接評価する研究は非常に遅れている。本研究は、新潟県内の信濃川などの河川や鳥屋野潟、佐潟などを対象とし、コイの血漿ビテロジェニンをバイオマーカーとして用いた野外調査を行い、内分泌かく乱物質汚染の現状を把握することを目的とした。 コイのビテロジェニンを免疫学的に定量する方法を開発した。コイの血漿ビテロジェニン濃度の正常値を把握するため、汚染が少ないと考えられる地下水で飼育する養魚場から様々な大きさのコイを購入し、血漿ビテロジェニン濃度を調べた。その結果、オスや未成熟のメス(体重100g前後)の血漿ビテロジェニン濃度は、0.17〜0.76μg/ml(0.40±0.13μg/ml、n=42)であった。 信濃川下流域の新潟市で体重1.5〜5.0kgのオス15尾、中流域の分水町で体重1.2〜2.1kgのオス3尾、中流域の小千谷市で体重1.0〜2.6kgのオス24尾、佐潟で体重0.3〜2.6kgのオス14尾、鳥屋野潟で体重0.8〜1.8kgのオス18尾を捕獲し、調査を行った。新潟市で捕獲されたオス15尾中5尾と、小千谷市で捕獲されたオス24尾中2尾の血漿ビテロジェニンの濃度は1μg/ml以上と、オスにしては高い値であったが、これが内分泌かく乱物質による影響か否かの判断はできなかった。 下水処理場放流水の内分泌かく乱性を評価するため、信濃川に流入する河川にある下水処理場放流水口直下で10〜14日間コイを飼育し、放流水に連続曝露した。平成11年度と12年度で時期を変えて行った3回の曝露実験の結果、下水処理場からの放流水には、魚類のビテロジェニンの誘導合成を促進する濃度で、何らかの内分泌かく乱物質が含まれていることが示唆された。内分泌かく乱物質のうち検出例のある10種類ほどの物質について曝露地点河川水中の含有量をGC/MSなどで測定した結果、コイの血漿ビテロジェニンの誘導合成を促進した物質の少なくと一つは、人畜尿に由来する天然の女性ホルモン、エストラジオールー17βである可能性が強いと考えられた。
|